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2016年1月に作成された記事

2016年1月29日 (金)

ブームからムーブメントへ

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 集英社新書『ブームをつくる』(殿村美樹・著、700円+税)を読みました。副題に「人がみずから動く仕組み」とあります。
 著者は、PRプロデューサーでありPR会社(TMオフィス)の経営者。私にとっては、長年の友人でもあり、彼女の会社が主催するプレスツアーに何度か参加させていただき、彼女がこれまでに仕掛けてきたさまざまなPR活動の実態を知る者として大変興味深く読みました。
 特に、地方に内在する魅力的な文化資源のPRを仕掛ける著者の側と、そのPRを受ける側のメディアである雑誌の編集者という立場の、かつての私。その立場の違いを越えて、この本が解き明かす「PR活動のあるべき姿と目指すべき目標」に、私は深く共感を覚えました。著者の実践してきたPRの本質は、私が長年携わってきた雑誌の編集という仕事と、少なからず共通したものがあります。もちろん手法も立場も異なりますが、たとえば著者がいう「個人へのアプローチ」というPRの基本は、雑誌編集の基本そのものです。
 読者である個人に向けて、何をどう発信するかに重点を置いて雑誌作りをしてきた私は、読者よりも広告のクライアントである企業・法人を向いて作る雑誌には馴染めないままでしたから、著者のめざすPR活動と似た手法で編集をしていたと思います。
 この本は、「ブームをつくりたい」と思っているビジネスマンやその経営者にとって新しい視点を与えてくれると同時に、一般読者にとっては、よく知られたブームがいかにして生まれたかを、わかりやすい実例を交えて紹介してくれます。そういう意味では、万人の知的好奇心をくすぐるエピソードが満載の本であるといえるでしょう。
 また、雑誌編集者にとって、この書が興味深く、新たな仕事への意欲をかき立ててくれる一冊になるだろうとも思います。たとえば……
 新聞やテレビが、従来ほどではないにしろ今でも「マスメディア」としての姿をかろうじて維持している一方で、雑誌はずいぶん前に「マス」を相手にするメディアではなくなっています。特に私が携わってきた雑誌の多くは、創刊時から「マス」であることを、ある意味拒否しながら編集してきました。PRはPublic Relationsの略ですが、私の目指したのは、メディアでありながら、どちらかというとPrivate Relationsでした。
 著者のいう「個人へのアプローチ」が、まさに私の雑誌編集の基本でありました。そして、魅力的な記事作りの基本は、いつも「人」であったという点も、本書が繰り返し主張しているPRの基本と重なります。新聞やテレビや電子出版物と違い、紙の出版物は、人がわざわざ買いに出かけるという行動を起こしてくれなければ、ビジネスとして成り立たないメディアです。そういう意味でも、著者のいう「人がみずから動く仕組み」を作るPR活動と、雑誌・書籍の編集はよく似ているのです。
 一過性のブームを否定し、永続性のあるムーブメントを提唱している著者の考え方に全面的に共感を覚えるのは、私が編集者として「自ら発信した情報が結果としてブームになることはあっても、出来上がったブームには乗らない」また、「他のメディアが取り上げたものは、違う切り口が見つからない限り取り上げない」という姿勢を曲がりなりにも貫いてきたと自負しているからです。
 ただ、立場の違いはあります。PRの基本は「モノやコト」をどれだけ多くの個人に売るかという経済活動が基底にありますが、雑誌の記事作りにおいては「取材対象が売りたくない」と思っているモノやコト(ネタといってもいい)を、こちらがいかにして買うかということから始める、「売るための営業活動」の前に「買うための営業活動」があるということ……などでしょうか。
 さて、超高齢社会という我が国が置かれた現状を踏まえて、著者がめざすPRが、この先どう対応、変化していくのかが楽しみになってきました。ますます高齢化が進み、全体として減速も視野に入れた社会変化の中で、理想のPRはどのような姿が望まれるのでしょうか。年寄りは一筋縄ではいかないですよ、って私のことですが。

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