映画好き、特にハリウッド映画が好きなら必読の一冊
古澤利夫・著
『明日に向かって撃て!』
文春文庫(本体933円+税)
『サウンド・オブ・ミュージック』、『猿の惑星』、『明日に向かって撃て!』、『スター・ウォーズ』、『エイリアン』、『ダイ・ハード』、『タイタニック』……1966年から37年間、著者が宣伝マンとして在籍した20世紀フォックスが公開した、きらびやかな、いかにもハリウッド的映画の数々。同社を退社後も含めると、46年間に及ぶ映画界で、古澤さんが宣伝・配給、企画・製作に携わった作品は実に747本に及ぶといいます。
先日(4月5日)、帝国ホテルで盛大に開かれた古澤さんの処女作となるこの本の出版記念パーティには、私も末席を汚させていただきましたが、古澤さんと私がほとんど毎週のように顔を合わせていたのは、1970年代後半から80年代にかけてのころでした。当時私は、『FMレコパル』、『少年サンデー』の編集に携わっていたのですが、1976年から担当した『少年サンデー』の巻頭グラビアページを始めとする映画の企画で、古澤さんにはずいぶんお世話になりました。振り返って見れば、古澤さんが宣伝を手がけた名だたるヒット作品のほとんどは、20世紀フォックスの試写室で観させていただいたことになります。
1976年の暮れ、『少年サンデー』グラビア班の私の元に、製作中のハリウッド映画のスチール写真(多分、10枚に満たなかったポジフィルム)が持ち込まれました。どうやら、アメリカで一部の業界誌紙に配布されたプレス・キットの一部のようでした。資料のようなものは何もなく、SF映画ということと、あの『アメリカン・グラフィティ』を撮った監督の作品であるという以外は何もなかったのですが、写真を見て仰天しました。従来のSF映画とは明らかに異なる実在感を持った映画であることが、メインのカットではない地味なシーンのスチル写真からも伝わってきたのです。
その写真を携えてフォックスの宣伝部を訪ね、古澤さんに「この映画について教えて欲しい」と頼んだのですが、その時点では明確な答えはもらえなかったので、勘だけを頼りに、当時の編集長を説得して、巻頭グラビア5ページでこの『惑星大戦争』(当時、仮の邦題はこれだったのです!)を紹介しました。今回、この本を読んで、当時の古澤さんがどのような想いでこの映画の宣伝に取り組もうとしていたかを知りました。日本のフォックスも1976年暮れ時点では、この映画の内容についてはほとんど何も資料がなかったのですね。
後にわかるのですが、『少年サンデー』が『スター・ウォーズ』の第一報をグラビアで紹介したのは、一般週刊誌では、アメリカの『TIME』『Newsweek』に次いで世界で3番目だったということです。
それ以降、古澤さんには以前にも増してお世話になるのですが、この本を読ませていただいて、改めてその映画界で果たしてこられた輝かしい業績を知ることができました。まさに日本における20世紀後半のハリウッド映画の輝く興行の歴史そのものです。
自分が編集担当した雑誌の企画で取り上げた作品、試写室で観せていただい作品、そして劇場で楽しんだ作品の数々……古澤さんが宣伝を手がけた映画のなんと多いことか。
とにかく、ハリウッドが最も輝いていた時期(と私が思っている)1960年代〜90年代の映画を観た、あるいは知っている人にはぜひ読んで欲しい一冊です。ハリウッド映画がどのようにして企画され、製作されていくのか、個々の作品における監督の役割、映画会社の経営者の考え方、スターが生まれる背景という、映画好きならひとつひとつが知りたくなる貴重なエピソードの連続です。そして、その映画を日本の市場で成功に導いていく宣伝の手の内や、興行界の裏側まで、現場を知り監督や出演者と直に接してきた著者でなくては書けない臨場感溢れる文章は、580ページの本書を一気に読ませてくれます。本書の副題に「ハリウッドが認めた! ぼくは日本一の洋画宣伝マン」とありますが、これは自慢や誇張ではなく、本の内容に比べればむしろ控えめな表現ではないかと思えるくらいです。
ちなみに、本書のタイトルにもなっている『明日に向かって撃て!』(原題:Butch Cassidy and the Sundance Kid)という邦題は、古澤さんの発案だったのですね。
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